ジョブ型雇用導入で気を付けるべき最も重要なこと

最近またジョブ型雇用が盛んに叫ばれるようになってきました。

多くの日本企業の生産性向上が低迷する中、お決まりのコストカット策としてジョブ型雇用を安易に導入しようという考えなら、やめた方がよいでしょう。従業員の給料を下げて短期間だけ収益を増やしても、5年後、10年後の企業や日本経済の状況を考えると愚策になりかねないです。

なぜなら、ジョブ型雇用になると、従来の評価者達で正しく人事評価をすることがほぼ不可能になるからです。(多くの日本企業で。もちろん例外もあります。)

 

「ジョブ型」雇用、電機大手から導入の動き…年功色を維持した「日本風」が主流
【読売新聞】 日本企業で、社員ごとに職務内容を明確にして処遇を決める「ジョブ型」雇用を活用する動きが広がってきた。国際的に人材の獲得競争が激化し、年功序列型の賃金などを特徴とする従来の雇用制度では対応し切れなくなっているためだ。競争

ジョブ型雇用とは、あるプロジェクトや業務を担当するために雇用される働き方のことで、プロジェクトの場合、その期間(通常数ヶ月〜数年程度)限定での働き方になります。日本では、契約社員や派遣社員など、非正規雇用の形態として広く普及してきました。

ジョブ型雇用は、企業側にとっては必要な業務を遂行する上で人員を柔軟に調整できるメリットがある一方で、転職市場が未発達で雇用流動性が確保されていない日本では、労働者側にとって雇用期間が限定されるため、安定した収入を得られないなどの不安定性が問題となっています。

過去に日本でもジョブ型雇用がもてはやされ、就職氷河期と相まって新卒でかなりの割合が非正規となった時代がありました。その結果、少子化個人消費の停滞GDP低迷を引き起こす一因となったといわれています。

ジョブ型をさらに浸透させると日本でも正社員の首を切りやすくなり給与を下げやすくなる方向にすすむでしょう

欧米には日本人の知らない2つの世界がある
残業が多く休みが取りにくい日本に比べ、欧米はワークライフバランスに優れ、女性も働きやすい。それというのもジョブ型雇用だから――。まことしやかに伝わるこんな話は大間違い。欧州企業にはジョブ型労働者とエリート層の2つの世界が存在し、働き方は全く異なる。

私事ですが、以前ある国際的な研究所で働いていたことがあります。ジョブ型雇用で、一般的な日本企業以上に競争が激しい環境でした。自分の役割と求められる成果が明確に決められていて、評価者である上司も優秀な方だったので成り立っていた仕組みだなと思っています。

しかし、日本企業の場合多くの上司(人事)が専門的な能力を持ち合わせてないため正当な評価をできるか甚だ疑問になってきます。

専門的知識・素養がない人に数日~数ヶ月程度の評価者研修を行ったところで、正当な評価能力をつけることは到底できないでしょう(例えが悪いですが、小学生が大学入試の学科試験の採点を数日間~数ヶ月の研修でできるようになるでしょうか?マーク式のような型にはまった採点はできるでしょうが、記述式の採点は、大学受験生以上の学力を身に着けてからでないと無理でしょう。)

もし日本でもジョブ型雇用が浸透すると、自分は給与以上に働いている、と思っている人の大半が今の給与に見合っていないと判断される可能性があります。なぜなら、正しく判断できる能力を持った人が今の人事制度では上司や人事にいないからです。

日本ではまず経営者や管理職、人事の刷新が必要になってきます。表面だけ変えても破綻することになるので。そのためには、小学校などの早い段階の教育から変えることが先で、長い年月を要するでしょう。まれに、M&A等で短期間に経営者が変わり、管理職も入れ替わり、人事制度が大きく変わることがありますが、その場合うまくいけば急速に業績がV字回復することになります。

今の経営に求められるのは経営者自身の深い洞察力と判断力です。急速なデジタル化など、目まぐるしく変化する社会情勢の中で企業が成長していくためは、幅広い知識と教養に基づいた適切な戦略立案と、自らそれに対して投資判断できる能力が必要不可欠です。残念ながらこういった知識、能力は何十年もかけて獲得するものであり、経営者、管理職が短期の研修で修得できるものではありません

このため、人事(査定や登用、配属等)は従来の社内の不勉強な経営者や管理職、人事部門ではなく、全て公正な外部機関等に委ね内容を透明化して、人間関係等による個人的な権利濫用を徹底的に排除すべきでしょう。

不勉強な会社の上層部がジョブ型の導入でも既得権益を離さず、ただ単に解雇しやすく低賃金な労働市場が拡大していくことのないよう、議論していく必要があります。