低賃金改善には一般社員よりも経営者・管理職・人事の入れ替えが必要

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1980年代にアメリカに次ぐ世界2位の規模といわれた日本経済は、90年はじめのバブル崩壊以降30年以上にわたって低迷を続けています。

日本のGDPは1995年には世界の17.6%1)を占めていましたが、2022年には約5%2)まで落ち込んでいます。また国民1人当たりGDPでみても、1995年には4.3万ドルだったのが2021年には約4万ドルと減少しています。これは多くの国が1人当たりGDPを伸ばしている中での減少で、世界での順位も1995年の5位からわずか30年足らずで30位まで低下し危機的状況となっています。

日本の労働生産性低く G7で最下位、OECDで23位 - 日本経済新聞
日本生産性本部は17日、日本の労働生産性が主要7カ国(G7)で最下位だとする国際比較を公表した。労働生産性は仕事で生み出す1時間あたりの付加価値で示す。経済協力開発機構(OECD)のデータに基づき、2020年の日本で

この30年間、世界の主要国の平均賃金は2倍近くに伸びました。一方で、日本の平均賃金は伸びず、むしろ約9割に減っている状況です。どうしてこういう状況になってしまったのでしょう。

マクロ・ミクロな視点でいくつか原因はあります。

  • 過度な円安誘導
  • 非正規雇用の増加(政策)推進
  • 少子化、生産人口減少
  • 企業のイノベーション不足(主に経営・人事起因)

これらは複合的にかかわってきますので、またそれぞれ別の記事で述べたいと思いますが、このなかで一番の原因は日本企業から新しい産業があまり生み出せていないことだと考えています。

家電メーカーなど、かつて日本を代表した大企業が急速に世界のシェアを失い、業績悪化してリストラの嵐にさらされているのをニュースでたびたび見ると本当に何とかしなければと思います。

日本の大企業はイノベーションを怠ったため、デジタル化による劇的な生産性革新や、インターネットを活用した新しいサービス、新製品創出の世界的な流れに乗り遅れたのです。日本企業の生産性は世界の主要国のなかでかなり低い部類に入ってしまいました。

日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は1時間当たり49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位の状況が続いています。

誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由
日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位の状況が続いている。これは、各国で1時間働…

【大企業病・危機的状況】

上記記事では、中小企業の生産性が低いことが原因だと言われていますが、私は大企業の生産性も世界標準では決して高いとはいえないと考えています。というのも、大企業の多くは生産性の低い部分を中小企業にアウトソーシングすることで見かけの生産性を高めているため、大企業内部の仕事自体は決して生産性が高いとはいえないでしょう。むしろ社内調整の煩雑さや意思決定の遅さなど、新しいことを生み出す力は格段に落ちているといえよう。

材料や人件費を極限までケチって利益を絞り出す合理化を毎年毎年続ける大企業の数々。合理化も限界がきているのに毎年呪文のように経営目標に加える経営陣たち。そしてそのしわ寄せは下請けやアウトソーシング先の企業まで影響が及ぶのです。中抜きで利益確保している企業にはそもそも新しいことを生み出そうという気がないでしょう。将来に投資することもないので実質成長せず、縮小均衡の経営が続けられるのです。

大企業が新しいことを生み出すことができないとどうなるか?例えば製造業では、せいぜい同じような製品をより安く、より高品質で作ろうとすることしかできなくなります。しかし、東南アジアや中国が最新のコンピューター制御の生産機械を導入して品質が上がってきている中で、ますます価格競争の勝負になっていきます。行きつく先は中国や東南アジアが豊かになって日本が貧しくなり、中間地点で均衡する未来です。サービス業も新しい付加価値の高いサービスを生み出せないでいます。例えばMicrosoft365やInstagramのようなサービスが日本から生まれないと、私たちのお金は利用料金や広告料として外国に流出し、日本は貧しくなります。

これに対抗するには製造業は全く新しいものを生み出すか、テクノロジーを駆使してロボットやIoTを駆使した完全自動化を導入して生産性を極限まで高めるしかありません。なお、国外に工場を移転させても日本国内で雇用を生み出すことはないので、国内でこれらのことをやり遂げる必要があります。

なぜそれが30年間もできずに放置され続けているか?生産性が上がらず低迷したままなのか?それはひとえに日本企業の経営陣や人事があまりにもイノベーション人材、高度技術者や研究者を軽視し、冷遇してきたからだと考えます。

残念なことに経営陣や人事の多くが、最先端のインターネットや科学技術に関してリテラシー不足なため、その重要性に気づいていないのでしょう。

リテラシー不足は世間一般で言われているような年齢とかの話ではありません。私のクライアントさんには高齢な方でもテクノロジーを熟知しておられる方がたくさんいらっしゃいます。一方で、若手の経営者や若手のマネージャーさんの中に、不勉強な方も結構な頻度でおられます。ですから年齢で安易に区切る意見には大反対です。

よく人事の方に、イノベーションを起こすならこの部署の若手の比率を増やしましょうと言われますが、間違ってますイノベーション人材に年齢は関係ないです。創造性は年齢でなく人によります。若手でもバックグラウンドの知識がなく発想に乏しく創造性に欠ける人もいれば、シニアでも驚くほど知識豊富で柔軟な発想をされる方がおられます。

会社でTOEICの点数で昇進云々を議論するくらいなら、ITや科学技術のリテラシー、創造性を試験した方がいいのではないかと思います。むしろ経営陣の側にこそ必要でしょう。

リテラシーが足りないと、企業へのデジタルツールの導入が遅れます。業務の効率化も遅れるでしょう。また、最近のイノベーションは、科学技術や社会問題に関するリテラシーを持った人間から多く生まれています。これらのイノベーションをビジネスにつなげる「まともな」経営判断もできなくなります

経営陣がまともな判断をできないと、将来性がある事業部門を過去と現在の経営数字だけ見て手放してしまったり、逆に今儲かっているからと将来性のない会社を買収したりして、M&Aで失敗します。事業部門のM&Aですらまともな判断ができないのですから、これから生まれるであろう社内の新しいビジネスの可能性も経営陣が潰してしまっているのではないかと危惧しています。

また、日本企業の多くは新しいビジネスの可能性のみならず、これらを生み出すイノベーション人材を潰してきています。人事制度がそうなっているのも問題です。最近の人事制度は、いわゆるコミュニケーション能力リーダーシップアピール人材を異様に重視しているようです。数ある能力のひとつなのに、みなさん入社面談は演技力?成り切る能力?をテストされます。入社面接は俳優のオーディションでしょうか?

はたしてそのような人材ばかりが集まった組織にイノベーションを起こすことができるでしょうか。私は難しいと考えます。

コミュニケーション能力、リーダーシップ、アピールで乗り切れる時代は終わりました。いつまでもそんな人材ばかり求めて評価しているから、世界から取り残されているのです。

 

何度も言います。多くの経営者の方は生産性を高めようと、リストラや非正規社員比率を増やした人件費削減、乾いた雑巾を絞るような合理化・費用圧縮、従業員の給与抑制、将来の成長となる投資の凍結などを実行されますが、これらは一時的な効果だけで将来にツケを先送りするため何回も使えません。

しかしこの30年間、多くの日本企業でこの安易な方法が繰り返し繰り返し続けられていました。経営者の任期中だけ株価が維持できればいいのでしょうか。株主も、短期的な利益があればいいのでしょうか。

これが日本企業の生産性が低く低成長で相対的に世界から取り残されてきている一因だと私は考えています。

 

経営者や経営幹部の方々の中には、科学リテラシーや一般教養の習得にあまり価値を置かず、日常的に学習することに慣れていない人が多いです。このため彼らはデジタル化され激変する社会の未来図が想像できず自らの思考や行動を変えることがなかなかできないでいます。多くの人が学ぶことを止めてしまっており、社会人になってもほとんど勉強しない人が大多数です。(そもそもリテラシーの性質上、今から1,2年勉強した位で真のリテラシー修得ができるかというと正直厳しいので、本来そういう人が経営幹部になるべきではないのですが…)

また、経営・管理職・人事の意思決定者の中には、変えること自体がこれまでの自分たちを否定することになると恐れている人たちもいることが、コンサルをやっていてわかりました。

そんな人たちが企業の意思決定を行っていると、企業は変革することができないため、日本企業は世界の成長から取り残されつづけます。

日本企業は30年間も変革を放置したため、諸外国に比べて生産性が低下したと考えられます。

となると、いい加減、経営者・管理職・人事の入れ替えが必要でしょう。

 

多くの日本企業の人事制度がすでに時代遅れで、本当に才能のある人間を登用できていません。才能のある人間を見抜けず、無能な人が経営陣や人事の多くを占める状況では、内部から改革するのは非常に困難でしょう。形だけの人事制度改革をしても、自分たちの都合の良い改革中心になるため、無能な人を残した上での経営陣への登用になるでしょう。また、そもそもどうやって無能な人が有能な人を見抜けるのか疑問です。

これを変えるのは会社の業績が低迷して不利益を被るのは株主でしょうから、株主の方から経営陣の総入れ替えや人事制度の見直しを図っていただくのが近道だと思います。

長年低迷し倒産間近だった日本企業が社員ごと海外に売却され、新しい経営陣や人事制度のもとわずか数年で成長企業に変化したニュースは皆さんも何度か見たのではないでしょうか。これは経営陣や人事制度が間違っていたことの証左でもあります。

低迷が続く日本企業の多くが限界に近づいています。(海外に売却するまでいかなくとも何らかの方法で)会社のシステムを総入れ替えすることが必要になってくるでしょう。

 

1)内閣府ウェブサイト

Q15 世界の中の日本経済の位置づけはどのようになっていますか|選択する未来 - 内閣府
選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-(内閣府)を掲載しています。

2)テレ朝ニュース

世界のGDPに占める日本の割合が最低に
日本の名目GDP(国内総生産)が世界に占める割合が約5%と比較可能な1994年以降で最低となりました。  内閣府が23日に発表した2021年の日本の名目GDPは5兆ドルでアメリカ、中国に次ぐ3位でした。  しかし、世界全体に占める割合はアメリカが24%、中国が18%であるのに対して日本は5%に減少し、比較可能な1994...